#009 変化について―セイダ・ニーン

by Motandhel

 セイダ・ニーンに行きたいと言ったのは僕の方だ。予定していたわけではなく、地図を見ていてたまたま目についたのだ。少し疲れていたので軽い散歩にと思い選んだが、思い付きにしてはかなりいい選択だった。

 僕のようにヴァーデンフェルから旅を始める多くの人が最初にたどり着くのがセイダ・ニーンだ。セイダ・ニーンは船の停泊所がある小さな街で、鮮やかな植物が茂る湿地に囲まれている。土で作られた素朴で優しい色の建物が水辺の風景に並ぶ様は非常に絵画的で美しい。奇妙に足の長いシルト・ストライダーの影がその景色を横切るのも趣深く、またその優しく笛を鳴らすような低い鳴き声も街の穏やかな風景によく似合った。

 街を歩いてすぐに気が付いたことがある。景色が明らかに以前と変わって見えたのだ。といってもそれは街の変化が理由ではなく、僕の感覚の変化のせいだった。以前はただ新しい旅の始まりに胸を躍らせながらあちこちを忙しく駆け回っていたせいで、街の人々の姿やその表情を見る余裕がなかった。今回改めて訪れて、ここセイダ・ニーンは街の小ささにも関わらず多くの種族の人々が暮らしていること、そして彼らの背景には様々なストーリーが潜んでいることに気が付いた。シロディールから逃れてきたインペリアル、のんびりと釣りをするアルトマー……こんな小さな街でさえ、まるでこの混沌としたタムリエルの縮図であるかのように、様々な人々の生活が格子のように絡まって成り立っているのだ。

 そしてなにより、相変わらず街の真ん中に苛立った様子で立っているベセス警備隊長に声をかけて、僕は自分に驚いた。彼のことは覚えていたが、彼がダンマーであるということを全く意識していなかったのだ。旅を始めた当初、僕は自分が今関わっている・ともに仕事をしている人がどんな人なのかということをあまり意識していなかった。しかしここヴァーデンフェルで長い時間を過ごすにつれ、段々とここに住む人たち自身に惹かれ、その文化の素晴らしさに気付き、そしてダンマーの人たちに魅力を感じるようになったのだろう。アズルにはもちろん言わなかったが、ベセス警備隊長は非常にダンマーらしい、魅力的な男性だった(念のため、言葉以上の意味はないことを書き添えておく)。

  これまで通り過ぎてきた街に足を運ぶのは、僕自身の変化を感じるのにはとても良いことのようだ。次に行ってみたい場所を考えるのに役立ちそうなので、今日はしばらく地図を眺めて思い出に耽ろうと思う。


追記:

 前のページに書いたメモは、破らずに取っておくことにした。あのあと僕はアズルに僕たちの関係について確認した。これは恋人関係なのかと尋ねると、アズルは「まだ友達だと思ってたの?」と驚いた顔をした。続けて僕がどんな状態を恋人関係と呼ぶのだろうかと疑問を投げると、彼はあまり悩まずに答えた。恐らく「セフレ」(以前彼が言っていたのはこのことだった)との違いを意識した回答だったと思うが、これが僕にとっては大発見だった!

 彼は「外で会っている時間が長いこと」、そして「共通の友人知人に認知されていること」を例として挙げた。前者の方は僕にもたどり着けたが、後者には全く気付けなかった。つまり恋人関係は二人だけの関係で成り立つわけではなく、二人の関係がお互いの所属するコミュニティーに内包され、周囲に明らかにされることで成り立つというわけだ。他者の客観的な視点を持って初めて実体を得る関係。これは他には例がないように思う。素晴らしい!

 僕はこの説に納得した。そう考えると、共通の友人に関係を知られていて受け入れられている僕たちは恋人同士と呼べるだろう。まだ学びと考察が必要そうだが、一旦このことから離れようと思う。アズルのあの驚いた顔が忘れられない。もうあんな表情をさせることがないように努力しよう。