#013 寛容さについて―クラグローン・エセリアルの保管庫

by Motandhel

 前にも書いたとおり、アズルと僕はまるで正反対の性格をしている。落ち着きのない僕と違い彼はいつも芯があって、しかしユーモアを忘れず、そして何より寛容で優しい(これをそのまま本人に伝えると彼は僕の目が何かのフィルターに覆われていないかどうかを確かめようとじっと僕の目を見る。僕はそれが少し嬉しい)。一方で僕たちは物事の感じ方や漠然とした志向が似ている。同じ景色を見て立ち止まったり、ふとした瞬間に同じことを考えていたり、好むことや避けることが似ていたりする。

 だから彼と一緒に出掛けるのは全く苦がない。僕にとってはアズルとならどこへ行くのも楽しいだろうし、何をするのも新しい発見があるだろうという気がする。僕はそうした彼の寛容さや彼への信頼感に、ときに甘えてしまうことがある。

 先日アズルとクラグローンに行った。僕にはほとんど馴染みのない場所だが、アズルにとっても同じだったようだ。クラグローンで簡単な仕事を探すのは大変だ。この日は比較的楽だという情報を入手してある仕事に取り掛かったが、僕たちはあちこちをかなり歩き回ることになった(誤情報だったのだろうと思ったが、翌日に友人に手伝ってほしいと言われて同伴した仕事はこれより遥かに大変だったので、どうやら正しい情報のようだ)。その後改めて情報収集をして、もう少し簡単で面白い仕事を見つけた。またアズルを誘いたい。

 道中でふと思い出して、僕はアズルをエセリアルの保管庫に誘うことにした。以前一度だけ行ったことがあり、膨大な数の蔵書が並ぶ書庫の様子がとても印象に残っていて、もう一度ゆっくり眺めたいと思っていた。仕事の場所がエリンヒルだったので帰りに寄ろうと持ち掛けると、アズルは承諾してくれた。

 これは僕には少し冒険で、そしてアズルに対する甘えから頼んだことだった。僕は大勢で解決しなければいけない仕事では何度か失敗を経験していて、アズルもそれを知っている。そしてエセリアルの保管庫はまさにそうした仕事が必要になる場所だった。二人なので当然エントランスの書庫を見に行くだけのつもりだったが、それでも何となくこうした場所は胸が騒ぐ。アズルと行くなら少し穏やかな心でいられるだろうと思ったのだ。

 僕はかなり落ち着いた気持ちで書庫を歩き回ることが出来た。僕たちは端から端まで本棚を眺め、そこにいる人々の話を聞き、展示箱の引き出しを開け、座って取り留めのないことを話し、そして階段を上らずに帰った。僕の失敗を知っている彼がどう思っていたかはわからない。もしかすると彼も不安を感じていたかもしれない。それでも僕の勝手に付き合ってくれる彼には感謝しかない。

 これでもうエセリアルの保管庫には思い残すことがなくなった。恐らく頼まれない限りは二度と足を踏み入れることはないだろう。僕が彼にそうするように、とまでは望めないが、同じようにもしアズルが不安を覚えるような場所があれば、僕を連れて行くことを選択肢に入れてくれればいいと願う。きっと彼は、僕が急に川に飛び込んだりしないかとか、目的地と反対方向に走り出したりしないかとか、崖から落ちたりしないかとか、そんなことが心配で不安も忘れてしまうだろう。