#005 すれ違いについて―ノースポイント

by Motandhel

 アズルと喧嘩をしたことはない。少なくとも僕はそう思っている。けれど継続的な人付き合いが下手な僕は、相手を誤解させやすい。そして恐らく、すれ違いも生みやすい。

 一昨日は買い物がてら二人で色々な場所へ足を運んだ。いつもと同じように他愛もない会話を交わし、街の人々の様子や港の風景を眺めて帰宅した。そしてこれもいつもと同じように屋外に据えた浴槽でくつろいでいるときに、多分僕が言葉を間違えてしまった。或いは、それを言うタイミングと態度を間違えてしまった。

 思ったことをすぐにその場で口にしてしまう癖には、自分でも辟易している。アズルには「今それを言うのか」と言われた。後から考えると(内容はセンシティブなのでここでは書かないが)確かにあの時言うべきではなかった。その前の会話でもアズルはずっと僕に気を遣ってくれていたのに、それを僕の方がないがしろにするような態度を取っていただろう。とても後悔した。後悔したのだが、これも自分の悪い癖で、僕は翌日にはそのことをすっかり忘れてしまっていた。

 昨日は仕事を済ませるためにリベンスパイアーのダンジョンに行き、その帰りにノースポイントの近くの小さな漁村を訪ねた。海岸沿いで朝日が昇るのを見ていたら、それまで普通に振る舞っていたアズルが後悔の言葉を口にし、そして僕に謝った。僕はその時初めて、アズルが昨日のことをとても気にしてくれていたことに気が付いた。どうしてこれほどまでに鈍感でいられるのか自分でも不思議なくらいだ。全く情けない。

 僕たちはそれぞれの考えを話して、それから――いや、確かに眺めはよかったのだが、あの小島は手強いネレイドが現れる場所で、そのおかげで僕たちの会話は幾度となく中断された。優しいアズルは笑いながら「助けに行こう」と立ち上がり、ネレイドと戦う冒険者に加勢した。何人もの冒険者が、海岸で並んで座る僕たちの横を不思議な顔で通り過ぎた(中には目の前でじろじろ眺める人もいた)。

 はっきりとした結論にたどり着いたわけではないが、僕たちはそれから普段どおりに戻った。アズルが何か意見を言ってくれるたびに、僕には新しい発見がある。同意できる時もできない時もあるが、僕にとってはどれも等しく価値がある情報だ。これまで研究対象以外の物に対してこれほど多くの発見をすることはなかったように思う。これが他者と継続的な関係を築くということだとしたら、とても興味深く、素晴らしい体験だ。